不妊治療⑤ -採卵~酔った勢いで自己注射-

体外受精をするにはまず採卵をしなければならない。
無事に卵子が取れたら受精させ、順調に胚盤胞というところまで成長したら凍結し、後日移殖する。

 

これまでは通院するだけでよかったが、体外受精ではやることが一気に増える。
採卵日の前に排卵してしまうと全てが水の泡になってしまうので、
排卵をコントロールするための点鼻スプレーや注射など日時が細かく指示され、
アラームを仕掛けてきっちり時間通りに実施しなければならない。

 

自己注射は、通常は簡単に打てるペン型のもの(ゴナールエフ)を使用するようだが、
私にはそこまで効果がないことがわかり、オビドレルという薬剤を使うことになった。
オビドレルはペン型ではなく普通の注射器だ。
一応病院で練習はしたものの、自分の腹に注射器を打たなければならない……。

 

怖い……。

 

注射を打つ日の夜、私は恐怖を紛らわすためハイボールを飲み、酔った勢いで注射をすることにした。
(昔、自分でピアスを開けたときと同じやり方である)
21時半のアラームが鳴る。注射の時間だ。
箱を開けて注射器を取り出す。本物の注射器だ。
(ちなみに↓これです)
オビドレル | Merck Biopharma Japan


まず、針が折れないようにまっすぐに蓋を開けなければならない。
が、なんだか蓋が固い。
そして注射器はガラス製なので強く握りしめると割れそうで、うまく力が入れられない。

 

どうしよう、開かない!

 

病院では針を刺すところは練習したが、蓋を取るところは練習していない。
でも早くしないと、時間が過ぎてしまう……。
固い蓋を思い切りいっぱって、ええい
と勢いで蓋を引っ張った。

 

開いた!

 

……が、微妙に針が曲がってしまった。
針が曲がった場合は主治医の指示を仰ぐように説明書には書いてあるが、もう夜だし面倒くさい。
なんとかこれで打とう!(自己責任)
私は、針の痛みに負けないくらい腹の肉を強く掴んで、少し曲がった針で薬剤を打ち込んだ。
薬剤を注入している間、手がぶるぶる震えていた。
注射後、なんだか痛いなあと思い見てみると、指から血が出ていた。
蓋を開けたときに針先で傷つけたようだ.。
無事ではなかったが、私は何とか注射を終えた。

 

その後、私は計画通りにタスクをこなし、採卵日を迎えた。
事前のエコーではわかっていた卵胞の数は2個だったが、
1個は内膜症の影になっており針を刺せないということで、結局取れた卵子は1個だった。

 

当時、不妊治療経験者のブログを読み漁っていた私は、一回の採卵で複数卵子が取れるものだと思っていた。
しかし、私はたったの1個だ。自分の体質にがっかりした。
もしこの1個がちゃんと受精しなかったら? 受精はしても胚盤胞まで育たなかったら?
また採卵からやり直しである。
無事に凍結されることを祈るしかない。
1個も取れない人だっているのだから、1個取れただけでもよかったと思う一方、
やっぱり本音では「たくさん採れる人はいいなあ」と思った。

 

数日後、凍結結果を確認するため病院に電話した。
私のたった1個の卵子は、無事に受精して凍結されていた。
とてもとてもうれしかった。
私の卵子はちゃんと胚盤胞になることができるのだ。

 

採卵にかかった費用は以下の通り。
 採卵のための検査や薬 73280円
 採卵当日 264650円
 培養 55765円
 凍結 56645円
合計440340円

 

おぉ……胚盤胞を1つ凍結するだけで44万円である。これまでの治療とは桁が違う。
高いと思っていた人工授精1回28000円が安く感じられる。
しかしこの44万円を使って採卵をしたおかげで、
私の卵子精子と出会うことができればちゃんと受精して胚盤胞まで成長できる、ということがわかった。
これまで何度も「妊娠できない」を繰り返してきた私は、
「どこだかわからないけど私のどこかがダメで妊娠できない」というマイナス思考に捉われてきたが、
初めて「私の卵子には問題がなさそう!」とプラスに考えることができた。