不妊治療⑥ -胚盤胞移植 〜さすがに妊娠するでしょ

採卵を終えた私は、胚移植に備えて子宮鏡検査や肝機能検査を行った。
子宮鏡検査ではほんの小さなポリープはあるものの、手術して取るほどではなく、
生理のときに一緒に取れてなくなってしまうこともあるので気にしなくてもよいと言われた。
肝機能は数値が悪かったので念のための検査だった
当時は酒の飲み過ぎかと思ったが、今思えば採卵に使った薬の影響だったのかもしれない。
そして2022年3月の中頃、ついに胚移植をすることになった。

 

私の卵子はちゃんと受精卵になった。しかも4AAという、よいグレードだった。
なんの問題もないもないではないか。それなのにこれまで妊娠できなかったということは、
なんらかの原因があって卵子が子宮までたどり着けなかったのではないか。
ということは、このグレードの良い胚を移植すれば、今度こそさすがに妊娠するでしょ?
私にはそんな謎の自信があった。

 

胚移植にはホルモン周期移植と自然周期移植がある。
ホルモン周期移植では薬を使って「排卵していないのに子宮はふかふかな状態」にして移植をする。
自然周期よりもコントロールしやすく、通院回数が若干少なくて済むということで、
なるべく仕事を休みたくない私は、ホルモン周期で移植をすることにした。

 

移殖の日、まず診察室で先生から説明を受ける。
このとき先生が「今日はこの胚を移殖しますね」と融解後の胚盤胞が印刷された紙を渡される。
この紙を渡されたということは融解がちゃんとできたということだ。
凍結胚を融解するとき際にちゃんと戻らない場合もあるそうなので心配していたのだが、
(前日に大きくはないが地震があったので、アクシデントが起きてたらどうしようかと不安だった)、
ひとつハードルを超えたような気になる。

 

同じ時間帯に移殖処置を受ける人が私以外にも4,5人いて、
それぞれがカーテンで仕切られた個室風のスペースに案内される。
ロッカーに荷物を入れてベッドに腰を下ろして待っていると、順番に番号が呼ばれる。
やがて私の番が来て、採卵をしたときと同じ部屋に案内された。
そこには手術着姿の先生がいて、顕微鏡でこれから子宮に戻す胚を見せてくれた。
移植はあっという間だった。
診察台に上がって、モニターを見ながらなんとなく「ああ移植されたんだな」と思った。
生きている小さな小さな赤ちゃんのモトが、いま自分のお腹の中にいるのだ。
お腹を抑える。少し生理痛のように痛いような気がする。
個室風スペースに戻り、30分ほど横になったらその日はそのまま会計を済ませて帰る。会計は約16万円。
検査や妊娠率がわずかに上がるオプションなども合わせると約25万円となった。
採卵に44万、移植に25万で体外受精を一回行うのに合計約70万円かかったことになる。


ところで超余談だが、
薬を使って「排卵していないのに子宮はふかふかな状態」にして移植をした私は、
移植後も薬を継続しなければならない。
排卵させていないためだと思うが、普通の妊娠であれば体が勝手に分泌するのであろう「黄体ホルモン」を
毎日12時間おきに膣に座薬を入れて補わなければならない。
これを怠ると「妊娠してませんよー」と体が判断して生理が来てしまう。
看護師さんに「この薬、命――みたいなとこありますから」と言われたのを覚えている。
忘れたらすべてが終了なので、12時間おきにアラームをかけて忘れないようにする。
これがまあまあ面倒である。その上、
この膣座薬、地味に厄介な問題がもう1つ。
かなりの量の薬剤が溶けて出てくるのである。
薬の説明をしてくれた看護師さんが「膣座薬は溶けて出てくるのでナプキンを使うとよいですよ」と
教えてくれたので私もナプキンを使うことにした。
が、ここで問題が発生。
説明が難しいのだが、この溶け出した膣座薬をナプキンで受けると、
ナプキンを下着に固定するための粘着部分が下着にこびりついて取れなくなるという現象が発生する。
膣座薬は一応ちゃんとキャッチできているのに、なせそうなるのか仕組みはよくわからない。
座薬の中のなかにナプキンを透過してしまう成分があって、
それが糊を溶かして下着にくっつけてしまう……のだろうか。
これが洗濯機で洗濯してもおちない。手洗いでものすごく頑張るとなんとか落ちるのだが非常に面倒である。
いろいろ試した結果、
私の場合は結局ナプキンではなく、
何回か折りたたんだティッシュペーパーを下着において解けた膣座薬を受け止める方法に切り替えた。
多少膣座薬が下着についてしまうことがあったが、
これは洗濯すれば簡単に落ちるので、粘着のべたべたよりはましであった。
この膣座薬溶け出し問題は、下着だの膣座薬だのナプキンだのとなんだか口にしづらい話題だが、
経験者は誰しも通る道だと思うので敢えて書いてみた。
というか、もっと良い方法があれば知りたい……。